白昼夢〜あらすじ〜

医者のずさんな診断とビタミン剤の処方を受けた僕は「ああ、死ぬんだろうなあ。悪ければ半身不随だろうなあ。」と憂鬱になりながら駅から駅へと歩いていた。そんな時紀伊国屋から出てきた女子高生の美しげな顔とその細い足を見るにつけ、「こいつは自分がきれいだと知っててこんな、あたかも周囲に無関心であるかのような歩き方をしているのだ。」と思うとふつふつと湧いてきた感情はこれこそ「ケりたい背中」なんだろう、と思った。彼女が自分で自分の背中を蹴ったら楽しいだろうなぁ、でもそんなこと既に誰かが考えているんだろう。
彼女を傷つけたい?自分が死ぬというんだからもっとやさしい事をしてあげようじゃないかと考えるべきだ。例えば封筒の中にピン札で一万円を入れて、無言で渡してやるとか。それこそドラマチックというものだ。他の人間に優しくしてやれないのは悲しいけれど。
早速今夜それを実行に移す格好は頭の悪そうな帽子一つで、彼女の肩を叩き、無言で封筒を差し出す僕の顔はにやにや笑っていて、街灯に照らされてさぞ気持ち悪かったのだろう、次の日にたむろしていた「悪そうな」少年たちにいい扱いは受けなかった。