と思った、恋のソロバン伝説

幼女と母親向かいあって、ソロバンの勉強。ソロバンを身に付けることはとてもいいこと。俺はやってないけど。ローラースケートにしたくらいか。
なかなか解き進めない娘に母親は苛立って問いかける。
「ねぇなんで263を引かないの?」
「ちがうの…こうじゃないの」
「ちがうじゃないでしょ1かける263やってごらんなさいよ」
母親がソロバンに手を出す。
「あ、かってにさわらないで」
「何」
「せんせいこんなやってなかったもん…」
「何でママの言うことが信じられないの?いんにがにいんさんがさんいんさんがろくでしょ?」
ママ違うよそれ!
「何でそこから引くのよここからでしょ!?」
「ひけないもん…」
「それじゃできないじゃない!は・や・く・や・っ・て」
「1あまり…」
「ありえない」
「ありえなくないもん…」
夕闇に響く珠の音、母親の怒声。よそでやんねーかなー。メシが不味くなるんだが。
間違いだ無理だ駄目だと上から圧迫するだけの学習ってほんとに不毛だなー。子供にソロバンを習わせる分別はある母親なんだろうにこの光景は不気味だ。この子が理不尽な母親の指導で適切な忍耐力を得んことを。
「お醤油買ってくるから。すぐ戻ってくるからここまでやってないと嫌だからね」
女の子はひとりになった。窓の外を見つめながらオレンジジュースを飲んで、足音に怯えそろばんを始める。俺にソロバンが出来たらなぁ。