すずめ

何かの目的で旅をしてたんだけど、途中で寄った宿の話。
この陰気な宿には一人の老婆しかいなかった。これから泊まることを告げても、口を開きもしない。それでも泊まることはできるようだった。陽が落ちると老婆は、宿の戸の前に米粒をひとつ置き、戸を閉めた。そして戸の反対側、つまり内側にすずめを一羽置くと、明かりを消して寝床に向かうのだった。
その晩は何事もなく終わったけど、次の日のこと、やることがあって、宿に帰りついたのは夜になってからだった。今夜も戸の前に米粒があった。それで戸を開けると、そこには昨日の通り、すずめがいた。お分かりだろうか。すずめは外の米粒に気付くと、外に出てそれをついばみ、そのままどこかへ飛んでいってしまった。なんてことだ。老婆がすずめのいなくなったことに気付けば、自分がすずめに変えられてしまうだろう。それでこれからずっと捕われの身となるだろうことを知ってしまった。
寝床に入ってからも「なんでこんなことに…」とか「なんで俺が…」とか、泣きながら考えているばかりだった。
ところがふとあるとき、これが夢であることに気付いた。そうすると自分が拘束されることがないのを知ってとても嬉しかった。