家に帰ると妻が泣いている。どうしたんだい、と優しく声をかけるが、「ごめんなさい」と繰り返すだけではどうしようもない。テレビを見ながら、妻を背中から抱きしめてやっていると次第に落ち着いてきたので、夕飯をよそいながら話を聞いた。「この間、鉄のヤカンを買ったでしょう」その話か。ちょっと苦い感じがした。うなづく。「あれで、あなたの好きな緑茶をいれるの、って張り切ってたわよね」うん。「でも鉄瓶で沸かしたお湯には鉄イオンが溶けてて…」また泣き出しそうだ。「お茶のタンニンと反応してしまうんだって。私知らなかったの。きっと美味しくなかったよね、私がいれたお茶」彼女がヤカンを買った時点でそのことは知っていたんだが、それを言うほど無粋ではない。しかし知ってしまうとはね。