雷の乗用車

娘のための決断を最後まで下すことのできなかった男は、オンボロの赤い車の助手席に失意の娘を乗せ帰る中、ハンドルを切りながら考えた。今度こそが最後のチャンスだ、逃すわけにはいかないのだ。彼はこう宣言した。「この車から雷を落してよい」と。そんなことをすれば彼の自動車がダメになってしまうのは明白だった。黙したままの娘を横目に、彼はこの車の思い出をひとり語り続ける。まず、高校生のころの友人と二人で作り上げたこと。それから、いろいろな実験を重ねるうちに車が傷ついていった話。未だ娘は押し黙ったまま、やがて人ごみに行き当たる。車を停め外に出ると、道路の両側には出店が立ち並ぶ祭りの賑わいである。一行は足止めをくらったかたちとなった。その祭りの中央の、子供みこしを指揮すべく飛び出したのが、彼の旧友、車を作った相棒その人だった。
俺は出店でハッカ焼きなるものを食べた。トンカツの中身に、豚肉だけでなくハッカを混ぜてみたという代物だった。