逆巻く時にも、そのさかまきの中にあって移ろわない時点がある。おれはそこを大きく廻り込むように位置を変えながら、漂っている。といってもこの運動が水面を類推させるものではないのは、渦がその中心に必ずしも向かっているわけではないからだ。今の位置が数刻ずれただけでも、行く先に大きな違いをもたらす。もともと予想なんてできる類のものでもない旅であり、安穏と浮かんでいるわけではない。しかしおれ自身は漂流しながら、かすかに聞こえる夏の天才の、冬の公女の声に、向かっているつもりで、漕いでいる。どこにいるのかは正直分からないが、そう思っているところに着くはずなのだ。次第に声がはっきりしてくる。それ以外は一緒。聞き取れるようになるとこう言っている。「また…なんですね」そう、またなんだ。またでした。こうしてこうなった。