インドの体術

インド人に教鞭をとったという男が勤務先に新しくやってきたので、体術で勝負した。相手がなかなかの強者で、気づいたら重心のこちら側に足を踏み込まれて投げられそうになる。上から中断の声がかからなければ危ういところだった。戦いの様子を後ろから覗きこんでいた友人も「あれはダルシムの○○○(漢字三文字の必殺技)に匹敵する恐ろしい技だった」と振り返って評価した。俺は自慢げに、たっぷり二時間は戦ったな、って話したけど時計を見てみると実際は一時間そこらだった。その後、会議室のロの字に並んだ机の側面について、先の男の紹介になるインド人ふたりの面接をすることになっている。本人が部屋に入る前にアンケート用紙が配られる。これは事前に彼らに回答させたものと同じで、面接官である俺たちも鉛筆をとって答えを書きこんでゆく。隣の男が「この名前の欄は本名を書くんですかね、みんな」などと訊くので当然だろうと答える。向かいの坊主が「外から仕事を依頼されたことはありますか、って、俺そんなの一度もないよ」とこぼすのでお前は一度経を読んだことがあるだろうと言ってやる。俺は鉛筆でその欄に大きく「なし」と書いた。