埃の息

風呂から上がって部屋を覗くと、壁の陰からほうっ、と煙が吹き出し、それが人の吐息のようだったので、煙草かと思い駆け寄ったが、本当にただの吐息だった。吐息の主は作業服を着た見知らぬ爺で、自分が埃のような息を吐いていたのを見られて狼狽しながら、おれにあいさつした。部屋の反対側でおれのPCを勝手に使っていた男はおれに気づいた途端に画面を消して何ごともなかったかのようにこちらを向いたけど、カスタム少女のデモ動画を見ていたのにおれは気づいていた。PCがなぜロックされていなかったのかということ以上に、窓の向こうで作業していたはずの二人が部屋の中にいることが不思議だった。それでも礼儀正しさを失わずおれは飲み物をすすめ、「酒と水道水しかありませんが、どちらがいいですか。ひとっ走りお茶を買いに行ってもいいですが」と声をかけると、爺は相変わらず落ち着かない様子で、勝手に部屋に入って申し訳ないとも、もっとまともな物を出せないのかとも言っているような目でこちらをうかがって、何も言葉を発しない。傍目には怯えて遠慮しているように見えるが、同時に見下していることも分かっているおれは、しかし気にしないことにして、飲み物を買いに出ることにした。部屋にはもう一人、それはおれの友達がいて、この見知らぬ客を残して行っても部屋を荒らされることはないだろうと踏んだためでもあった。