真に相対する

埋もれていたディスクをトレイに置いてボタンを押せば、凍っていた時間がふたたび動きだす。おれは登録されたクレジットカードから幾らかの金を引き出して、数十メガバイトのデータに充てる。インターネットがそれを転送し終え、慣れた音楽、慣れた操作で、いつもの繰り返しの世界に立つと、おれと真は日本のどこかに居て、誰が決めたのかも知らない仕事をともにこなす。真があたかもおれを慕っているかのようにモニタの表面で語りかけ、彼女におれが親指だけで応えるのに罪悪感を覚えるのは、不思議なことではない。現実の世界のたった数千円を費しただけのおれのために、彼女のような存在が、電気と機械の続く限り、たとえ起動しなくても、いつでもそうできるという可能性をはらんだまま、このおれのいる現実世界に接していることは、不合理で、俗悪で、おれの美的センスとはいわなくとも道徳(それがあるならば)には受け入れがたいことだからである。吐き気がするほどに平凡な、ごくごく現実的な手段で手に入れた銀色の円盤いちまいで弄ばれる彼女を、おれが敢えて有り難く頂戴することはなくて、常に前頭葉の前方に、無限の距離と広がりをもっているあらゆる不定が、彼女のいるべき世界である。