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装甲車の屋根

土色の世界でおれは兵役についていて、装甲車みたいなごつい車に乗って悪路を行くと、高校の頃の友人Hに出会った。頭髪をきれいに剃った彼の後頭部から額にかけて、皮膚の下を血管が何本か平行に、赤く太く流れているのが見えて、その模様が何かの呪術みたいだった。事実彼は聖職者で、行軍の途上にあるおれたちに祝福だかありがたい言葉だかを与えにきたのだった。

「タイ人が初音ミクを虐殺しているのは知っているよね」

おれを見上げて彼は語りはじめ、宗教的な忠告の言葉をいくつかかけてくれた。おれは車の天井に腰かけてそれを聞いていたけど、手にしたぶ厚い台本によると、ここで形式にのっとった返答をしなければならないという。本をめくると、ゴシック体の見出しとそれに続く箴言が並んでいて、こういう話をするんだな、とだいたいの内容を把握してから元いたページに戻り、台本を読みあげる。しかし読みあげながらも口にした内容は全く頭に入っていなくて、隣の男に小突かれてはじめて、さっき見たページをまるまる飛ばしていたことに気づくというしまつだった。