月食だっていうので、月と、それから月を見る人を見物するために、定食屋の帰りに散歩する。桜や花火と違って遠く空にある月は、障害物さえなければ夜のどこからだって見ることができるので、住宅の前、児童公園、交差点、あちこちに人が、疎らにいる。コンビニの前ではおっさんがゴミ出しに出てきた若いバイトに話しかけている。バーにいた六七人の男女が外に出てきて、騒がしく指差している。ギターやベースを背負ったバンドが自転車を止めて天を見上げている。月は赤かった。星もよく見えた。しかし何といっても寒かった。