窪みの駅/暗い体育館

仕事でどこだかに出張しているのだが何やら修学旅行の団体も行程が同じようで一緒に着いてくる。それどころか、どういう訳なのか上司が彼らの引率のようなことをすることになっていて俺は少し手持ち無沙汰になってしまった。何か街に出て上司か修学旅行生か、誰かの後を追っているのだが信号やら車やらでだんだん距離を離されている。大きく窪んだ地形の坂道の道路を跨ぐように鉄橋が架かり、そこから縦に建物が鉛直に立っていて、地面にぶつかった部分に駅の入り口がある。夜中なので駅の入り口から漏れる光のほかは横断歩道の信号ばかりだ。そこで追っていた人間と合流することができた。それで宿泊施設に帰ったのか、すべて男ばかりので修学旅行生が洋風にセッティングされた四角いテーブルを囲みぞろぞろと20畳ほどの狭い食堂に入室し、引率ありがとうございました、そして○○君はこんなことがありました、別の○○君は……と食事前の口上を伸べるあいだに、上司に小さな声で「この土日、僕は泊まるところもやることもないので帰りましょうか」と相談するが俺自身は本当は帰らないでここで遊んでいたいと思っている。
昼ごろ、誰か見つからないので捜さないといけないということになっている。森の中、木材で作られた何かの建物にいるらしい写真が何枚か手掛かりとしてあるのだが俺は見たことがない場所で他の人間も何も言わないのでそうなのだろう。もしかしたら気にしていないだけかもしれない。その森への入り口を歩いていると同行の誰かが地面に盛られた白い小石を踏んでいたらしく右手の涸れた小川を挟んだ向かいから男がピッピッを笛を吹いて歩く場所を変えろと指示してくる。最初は自分の知り合いに見えて気安く思ったが、やがて道が右に湾曲しその男と合流することになると俺が思っていたより体格がよくて知らない男であった。男は石に座って、なぜ先ほどの道を歩いてはいけなかったかを日本語ではない土着の歌で教えてくれる。その歌には特徴的な部分があり、ここがサビだと思われるのだが、「チャクチャクチャクチャク」と言うのである。それを言うと1番が終わり、また2番が始まる……という風になっていて、少なくとも10番までは続きそうだった。仲間の一人が、男がその歌を歌っている最中に口を挟んで人を捜しているのですという話をする。それで男の歌が途切れてしまったので俺がそのサビの部分だけ「チャクチャクチャクチャク」と歌っておいた。男も仲間も一瞬こちらを見たがそれ以上気にした様子もなかった。
森は広く、中には体育館のような建物があり中は非常に大きい。古い建物で照明器具も薄暗く、板張りなので寒々しい印象がある。そこにいくつもの区画が低い壁で並んでいて子供が遊んでいたり老人がビリヤードをしていたりするのを横目にぐるりと一周するのだが時々ムカデやゴキブリが出るので避けるか、近くにいる場合は殺さなくてはいけない。おれは区画の壁ぎわにあったウィスキーの壜を武器として一つ拝借することにした。結局そこにも捜している男はおらず、体育館を出た日向で休憩をする。仲間の一人が外国人だったので、俺はどうして俺の服には2007年よりも古い時期に買ったものがないのか、という説明を英語で彼にしていた。