スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』

若くしてこの世を去ったアメリカの天才作家エドウィン・マルハウスの人生をつづる伝記……を装ったなにか。装ったなにかである、というのも、エドウィンはたった12歳で死んでいて、この本ではその人生を幼少期・壮年期・晩年期に大真面目に分けてみせているおかしさがある。

所々の紹介では鮮やかに描かれる子供の世界、のように書かれていたりするが、そのような感想はとくにない。幼少期はエドウィンと書き手のジェフリーばかりの登場でけっこう退屈なのだけど、壮年期(小学校にあがってから)に入ると一気に面白くなった。読んでいると、エドウィンの伝記のような体をしているが、ジェフリーの話なのではないかという風に強く感じられる。あとがきを先に読んで、信頼できない語り手なのかな、と思っていたけれどそれとも少し違う気がした。ジェフリーは偏執的な観察対象としてのエドウィンと心のなかで融合し、伝記としてのエドウィンの人生を見ていた。エドウィンは主人公のようでありながら本の中に閉じ込められ主体性を失った存在であり、終わってみるとこれはジェフリーについての本なのだという思いが残る。

生涯をふり返る話、信頼できない語り手ということでウルフの『ピース』を連想したがそれもあながち間違いではないように思う。エドウィンに関わった人物の死には不気味さもある。