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スーザン・A・クランシー『なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか』

なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか (ハヤカワ文庫NF)

なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか (ハヤカワ文庫NF)

著者はもともと幼少期の性的虐待の偽りの記憶に関する研究をしていたのだけれど、社会的なバッシングがあって続けることが困難になり、アブダクションという、よりカドの立たなそうな題材を選んだということらしい。しかしこの性的虐待の話も恐ろしさがある……。身内から身に覚えのない話で糾弾されるというのは。

アブダクションの体験は催眠によって思い出されることが多いが、まずその過程自体に問題がある。ここ40年ほどの研究から、「催眠は記憶を回復させるのに好ましい方法ではない」、むしろ「偽りの記憶がつくられやすくなる」ことがわかっている。催眠による記憶の回復は強烈な感情を伴うことがあり、その経験自体の強さがアブダクティー本人にとっての迫真性を増している。

「アブダクティーは、ビリーバーでない人より統合失調型基準にあてはまる」とも言われている。ただちに統合失調症とはならないが、スピリチュアルなものを信じやすくなったりもするらしい。いわゆるヒステリー(科学的にそういうカテゴリはないが)的であるとも述べられている。ヒステリーは社会的な病症で、「その社会で認められている病気の形をまね」るものであるから、つまりアブダクションやエイリアンというストーリーがそれだけアメリカで市民権を獲ているということだろう。

彼らアブダクティーはそういう素地を持っていて、かつ睡眠時麻痺(金縛り?)やその他の強烈な体験をし、その理由を求めていた点でみな共通している。科学的な無味乾燥な説明(これをアブダクティーが知らないわけではない)よりも、体験を伴い、ストーリーとして理解でき、また人生の意味と宇宙へのつながりを得られるアブダクションが受け入れられるというのは理解できる話だ。おそらくは神とのつながりよりもエイリアンとのつながりのほうがありえそうだという感覚で、精神と物質と科学の微妙なバランスを感じる。

しかし催眠療法やそれを行うカウンセラーのあること、エイリアンという存在が都市伝説として十分な地位にいることがアブダクティーを生みだしているのだと思うと、これは心理的というよりアメリカの社会的な症状なんだろうなあ。そういう観点から見た本があったら読んでみたい。これからアメリカが没落し世界の王様としてのアイデンティティを失うと、エイリアンが訪れる道理もなくなるのだろうか? そして性的虐待に関しても同じ構造があると考えるとやはりコワイ。

ハヤカワのノンフィクションは初めて読んだかもしれない。著者は科学的な薀蓄を垂れたり講釈してやるという態度ではなく、自分の研究について真摯に描いている印象で、調査対象のアブダクティーたちにも十分な経緯を払っているように見えて好感が持てた。