北野勇作『かめくん』

かめくん (河出文庫)

かめくん (河出文庫)

前から評判には聞いていて、送料調整の隙を狙ってカートに入れた一品。昔見た書影はあか抜けない感じで(徳間デュアル文庫のものらしい)手が伸びなかったんだけど、届いてみたら雰囲気だいぶ違って、だけど読んでる間はあの眠そうな亀の顔が目に浮かぶのだった。かめくんは人工の模造亀で、周りの人間から見ると本当に思考しているのかそうでないのかも定かではないし本人にすら本当のところはわかっていない。甲羅に蓄積した記憶が思考させているらしいという推測はあるけど記憶はほとんどが封印されているのではっきりとしたところは分からない。そんなかめくんの目から、なにやら戦争をしていたり見知らぬ技術が幅をきかせていたりといった世界がだんだんと描かれていく。世界観はあっさりと明らかにされることもあれば最後まで有耶無耶なままのものもある。人造物の下町風日常、というのはよくて、その背景をまったく語らなかったらおれの好みだったろうな。