邪悪の商店

東京観光に来ていて数日目、友人と会って巡ることにしたので知らない街で待ち合わせる。原付をレンタルして向かっていたのだが、大きな道路の交差点で信号待ちをする間、後ろから来る車の邪魔にならないようにと(あと単純に怖いので)歩道の方に寄ったところ、そこにいた警官に止められる。わかっていたが道交法違反だ。はじめての経験で右も左もわからなかったが、ただ点数? を引かれて終わりなのかと思いきや、どこかの施設で申告をしなくちゃならないらしい。友人に告げると、あーやっちゃったね、という返事とともに距離やら時間やらを計算している様子。どうも、原付を没収されることになるらしい。手続きは電子化されているらしく、その初老の警官の言うことでは、民間の商店に往かなければならないのだが、警官のほうでもよくわかっていないのだった。最初にスーパーに行ったが取り扱っておらず、裏手の小さい店に行く必要があった。

その店は狭苦しくごった返していて、子供が多い。後ろに並んでいる男の子は勝手におれのカバンを漁って、あまつさえ中に入ってこようとするので始末が悪い。全体的に素行の悪い店のようだった。小学校低学年とおぼしき女の子が500円もするお菓子を買おうとしているのを見て、子供にこんなものを売りつけるのはどうかと思う(お金が足りなくて買えなかったようだが)。レジには二人いて、おれの手続きは店長の側でしかできないのだが店長は席を外してしまって、仕方なく帰るまで並んでいる。残りのもう一人の女の店員が口上を述べて何かを売りはじめた。しかしどうも邪悪なものを感じる。カウンターの上には箱の中にゆで卵が並んでいるが、一つは割れて、ヒヨコの脚が出てきている。客たちは気づいていないのか、店員の言葉を聞いているだけで、しまいに殻が破れ、毛のない茹でヒヨコが歩きだしても(なぜ生きているのか!)見向きもしない。しかし店員が「それじゃあ耳かきを使ってみましょう!」と言うと、ヒヨコは客の前に取り上げられ、おぞましい解剖の犠牲になっている。おれはあえて見ないようにしていたが、店員の「あ、飛んじゃいましたね」という言葉に前を見ると、血が目の前まで飛んでいた。

「さっきの老夫婦に工場建設の契約をさせたそうじゃないか」という声がして、店員の悪行がまたひとつ暴かれる。店長が帰ってきたのだ。これでこの事態も終わる、と期待していたが、続く言葉はなく、にやにやと笑う店長も結局グルなのだった。店長と店員はカウンター裏のコンピュータの前に座ってここをこうしたら壊れたなどと仲睦まじく話し込んでいる。ともかくおれは違反の件を進めようと店長の前に立ったが、どうやら列に割り込む形になっていたらしく、後ろの男に呼び止められ、この列は、この店で働きたいと希望する人たちの列だと聞かされる。見るとずらずらと人が並び、最後尾は見えないくらいで、こんな邪悪な所業に加担しようとする人がこんなにいるのかと思う。結局ここでも違反の件は進められなかった。帰ってこの店が売っていたキャットフードの原材料を見ると「猫、尿」とあり、おれは激怒してこれを捨てた。