- 作者: ピアーズ・スティール,池村千秋
- 出版社/メーカー: CCCメディアハウス
- 発売日: 2012/06/28
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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やらなければ明らかに不都合な結末が待ち受けているのに取りかかれない先送りの科学。
曰く、先送りは次のような式で表される。
(期待 × 価値) ÷ (時間 × 衝動性)
どうやって定量化するの、って疑問はさておき、これはこういうことだ。
- 期待 … やろうとしている(先延ばしにしている)ことが、成功するだろうと想像している見込み。
- 価値 … やろうとしていることに感じる価値。
- 時間 … やろうとしていることの期限までの時間。
- 衝動性 … 目の前のことに反応してしまう度合い。
この中でもっとも重篤なのが、衝動性。時間以外の3つの項に関する自己診断テストもあるが、自分は衝動性のファクターが一番大きかった。まあ、たいていの人はそうだろう。
このように分解した上で、この本ではそれぞれの因子への対策を提案している。中でも意味がありそうだと思ったのは、
- 脳内コンストラスティング法。ありたい姿と現状を思い浮かべることで、対比をおこない、その障害を知り、やるべきことを明らかにする。低い期待への対処(モチベーションの向上)。
- 失敗を考慮に入れる。はじめからすべてうまく行くわけではないことを知る。先延ばししないことより、まずは早めに取りかかることを目標にする。
- 課題を自分に関係あるものととらえる。長期目標の一歩として考える。低い価値への対処(これもモチベーションの向上だな)。とくに、回避目標ではなく接近目標として立てる。
- 先延ばししない、という目標か? 早めに取りかかる、という目標か? これはハッとさせられた。おれは前者で考えていた。
- 課題を達成するたびに自分にご褒美を与え、課題を楽しいものと認識させる。
- まあよく言われるやつだよね。お菓子を食べる、みたいなやつも、欲しくなったら自分で買うしなあ……と思ってしまう。けどちゃんとやったことないからやってみることに価値はありそう。
- プレコミットメント。セイレーンに抗してマストに自分をくくりつけたように、誘惑を予防する。衝動性への対処。
- メルビル、ユゴーのエピソードが笑えるし勇気づけられる。
- 非スケジュール。あらかじめ余暇の時間をスケジュールに書いておく。と退屈さを抑えやすい。
- 注意コントロール。誘惑を感じる「キュー」を明らかにし、排除する。通知なんてのはその類だ。おれの場合は Slack だな。
- ゴールを設定する。小さく具体的で、量や時間で区切られたゴールを用意する。言葉にする。習慣化する。
まあ大方良かったが、うまく整理された感覚はあまりなかった。意志や想像力の弱さのようなものにどう対処すればいいんだろう。何か具体的な課題に向き合うことへの恐れがあることを認めてほしかったところがある。加えて、最大の問題は、すべて締め切りのある課題が文脈として想定されていて、締め切りのない、故郷の母親に電話するとか、そういうことの先延ばしをどう扱うのか、がなかったのは大きな手落ちだと思った。自分で期限を切ることもできず、ああ今日も先延ばしにしたと思っている人生のかずかずのこと、伸ばせばのばすほど重く心にのしかかり、一方で今さら何をしてもしょうがないと思うあきらめ、おれはそれがいま苦しいんだし、そのメカニズムをこそ明らかにしてほしいんだよと再認識した。