音楽室のピエロ

目の前に着飾った金髪の男がいた。中世西洋の、貴族のようないでたち。おれは音楽講義室の固定された椅子に座っていた。暗い室内だけど、整然と並んだ机に他にもたくさん人がいるのが分かる。どうやら目の前のこの男がホストで、何かを祝っているらしかった。ふと気づいて、今日が何日だったか尋ねると、返ってきた答えは覚えていないがまさしくその男の二十歳の誕生日だった。気づくと講義室の黒板の目の前、一段高くなった舞台に光が当たり、その中で、男が背をのけぞらせて死んでいた。床に倒れないのは譜面台に体を寄りかからせているからだ。口に嵌まったガラスのジョッキが天を指している。ジョッキの中に溜まっている酒による溺死というのが、見たところその死体の死因のようだった。譜面台にはメニューのように、人名と20という数字のペアが並んでいる。この家の当主は、二十歳になると非業の死をとげるのが常なのだ。それを知ってか知らずか、この貴族の男はのうのうと酒を飲んでいるわけだ。おれがいますぐ止めろというのも聞かず、彼は余興に現れたピエロの前に立ち、バルーンを奪いとってプードルを作って見せる。暗い客席から歓声がわく。隣に座っていた女が「ピエロはああいうふうに、素人に出番を取られることがいちばん嫌いなんだって。バルーンのプードルは見た目こそいいけれど、あれよりも難しい技をピエロはもっともっと知っているんだって」と言っている。それから楽器の演奏がはじまった。