スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』

黒い時計の旅 (白水uブックス)

黒い時計の旅 (白水uブックス)

Journey じゃなくtours。冒頭は白い髪の青年にまつわる話で、そこは退屈で読みさしにしていたのだけど、彼とその母親の前に見知らぬ男の死体が横たわり、その大男の独白がはじまると俄然面白くなる。というのは物語めいてくるからなのだけど。読み解くのは難しくて、ヒトラーが支配を拡げる幻想の二十世紀と、現実の二十世紀とが、その大男の描く小説を仲立ちにして絡みあっている。それにしてもみんなヒトラーのことが好きなのは、現実にいた人間で、留保なく邪悪として前提することができるからなんだろうな。