宇宙のネット

通っていた高校のあった田舎町の、川沿いの工場でバイトをしていた。工場の中はだだっ広く白っぽい内装で、そこで何を作っているのかというと、宇宙に飛ばすロケットの積み荷だった。既に辞めてしまったひとつ上の先輩たちが時々その積み荷を盗み出すのを手伝っていたことを思い出して、俺たちもそれをしようという話になった。数人の仲間を集めた作戦は二段階に分かれていて、その最初の段階はうまくいったのだけど、次の段階で何かヘマがあって、あとは運び出すだけの積み荷を前にモタモタしているところに工場の大人たちがやってきて、顔を見られたと思った俺たちは一目散に工場から逃げていった。駅に着くまで土手を走って、とにかく遠くに行こうと言って電車に乗った。一度乗り換えて馴染みのない駅でもう十分遠くまで来ただろうと一息ついたときにはみんなバラバラになっていて、一緒にいるのはもう一人だけだった。
ロケットに乗って宇宙へ行った友人がマゼラン星雲で立ち往生しているという話を聞きつけて、俺は助けに行くことにした。彼と同じ型のロケットに一人乗り込んで地球を遠く離れ、真っ暗な宇宙に独楽のような特徴的な形をした星が浮んでいるのを見下ろしているうちに、目的の星雲がどこにあるのか全く知らないことに気がついた。何故かその友人とは連絡がとれたので尋ねてみたが自分の今いる位置も分からないので手の打ちようがない。周囲の星との位置関係が分かれば時間はかかるが手計算でも場所を特定できると思ってロケットの先端に出た。そこはロケットの内部と宇宙の真空がビニールのような薄皮一枚で隔てられているだけの空間で、ロケットの骨組を除けば他に視界を遮るものはなかった。左手下方に先ほどの独楽状の星が見つかったのでこれを目印にしようと思ったが、右手に目をやると同じ形の星が何十個も並んでいて、これは使えないようだった。進むうちに宇宙空間に張られた粗い網のようなものにロケットが引っかかって、慣性による移動が止まってしまった。立ち往生したまま、ともかく現在位置を割り出すためインターネットで調べようと思ってケータイに手をやったが、地球の電波などここに届くはずもないことに気がついて絶望したところで目が覚めた。