防波堤の夜

遠い過去の俺たちはその晩ロケットの打ち上げに成功し、俺は高い高い防波堤に立って、月の夜空を見上げて喜ぶ俺たちの昔の姿を見下ろしていた。ロケットが大気圏を抜けようとするとき失速しているように見えたので投げなおしてやると、ロケットは月に向かってふたたび勢いよく飛んでゆき、後ろから歓声が上がった。あの日の俺たちに今の俺の姿は見えないから、ただロケットが順風満帆に進んでいるようにしか見えなかったはずだ。

空が暗いとロケットがよく見えないから、俺たちは夜が明けるまで海岸に居続けた。明るくなると、俺のいる防波堤が飛び降りることのできないくらい高いことに気づいた。しばらく海岸沿いに歩いていると、地上に続く階段を見つけたので、降りる。側面には階段の傾きに沿うように暗号なのか何なのか、意図の判別しづらい日本語が一行書き記されていて、これが最後の手がかりだと気づく。その文を読みながら階段を上ってきた少年と目が合うや、少年は駆け出して、俺はその後を追った。