アガサ・クリスティ『春にして君を離れ』

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

人妻が自宅を離れた旅の途中に夫と家庭とを思い、それまでは気づかなかった何かに気づいてしまう……という話。ミステリではない。

やー、夫への愛が冷めてしまっていることに気づいて云々みたいな話だったらやってらんねえな! と構えてたけど、そうではなかった。なかったからよいのかというとそうではなく、これはこれでひどい話。ひどい小説ではない。

独白の小説なので夫や家族とのやりとりはすべて回想の中なのだけど、それが詳細であることや、ひとつの疑念につきまとわれ、苛まれる描写が、小説を読んでいることを感じさせ、また心の動きのありように現代とは違う基礎があると感じられて、そんなのは久しぶりの読書だった。