- 作者: ピエールバイヤール,Pierre Bayard,大浦康介
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2016/10/06
- メディア: 文庫
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もちろんハウツーじゃないんだけど。ハウツー本も別にほしい……
ペンで線引きしながら読んだからかもしれないけど、現代文とか論説の問題文になりそうな、わかりやすい文章だった。章ごとに半分くらいが何らかの小説の引用から成り立っているので、主張部分の分量が少ないのもあるかも。とはいえ一晩寝て朝から読みはじめたぶんは少し理解が浅い感じがある。
タイトルはこんなだけど、主題は書物をきっかけにした、書物にまつわる教養の話であり、書物にまつわる教養の話である。教養者たるもの、教養とされる書物は読んでいなければならないものである、という強迫観念を解体する話だ。
われわれは本を読んだそばから忘れていくものであり、また、人から本の話を聞いたり、タイトルや著者が目に入るだけでも自分の中に反響やイメージを創り出すものであるから、つねに本を読んだ状態と読んでいない状態の中間にいるのだといえる。人が本について語るとき、創造しているのは語り手その人であり、本は他者との仲介とはなっても絶対的なものではなく、それぞれの自己を投影するものとしての書物が交わっているにすぎない。つまりそこで本質的なのは、語り手や聞き手やそれらの作りだす場のほうなのである。
この本ではさまざまなシチュエーション(目次をみてくれ)を例に引きつつ、人が本について語ることのプロセスを明らかにしてゆく。教養と書物にまつわる概念を、以下のように整理できる。
形態 | 教養としての本の集合 | 書物 |
---|---|---|
パブリック | 共有図書館 | 遮蔽膜としての書物 |
プライベート | 内なる図書館 | 内なる書物 |
交わり | バーチャル図書館 | 幻影としての書物 |
- 共有図書館とは、時代に共有された、(教養としての)書物どうしの関係が織りなす書物の空間(=図書館)。
- 遮蔽膜としての書物とは、書物にまつわる言説によってまったく覆い隠されてしまった書物の、それをとりまく言説そのもの。
- 内なる図書館とは、個人に内在する、忘れられた書物や想像上の書物たちの図書館。
- 内なる書物とは、それが読解を方向づけ、すべての出会う書物がそれによってフィルターされるような、体系的な世界観の総体。
- バーチャル図書館とは、本が、本の虚構にとって代わられることを合意された、ゲーム的な、教養におけるコミュニケーションの場。
- 幻影としての書物とは、本と、それを読んだ人間との間に生みだされた想像上の書物を
そしてこの理解はもちろん、おれがこの本を通過するときにおれが創造したものである。読んでよかった。NHKの『100分で名著』にちょうど取りあげられたところで、思いだしていた『薔薇の名前』も登場していて、こういう出会いもいつもどおりある。