また電話があった

今日(昨日)は散々だった。散々というのも陳腐だが
徹夜して、朝から、電車に乗ると、隣の男が、携帯で、大声で話すのである。信じられないくらいの大声で。精神に障害があるだけだろうが。妹らしき人間と話している、彼は自分のことを「おにいちゃん」と呼んだ。その車両全体が彼のプライベートな空間であった。それでも仕事をしているのであった。その男は。便意を催し、駅員に改札を出ることを承認してもらうため並んでいると、突然おれの両足の間に棒が突っ込まれ、振り向くと同時に盲目の男とぶつかる。すみません、すみませんと聞こえるかどうか分からないが言い、道をゆずると、その男は、先の、点字ブロックに置いてあった誰かの荷物に蹴つまずき、大きな音を立てて転んだ。彼を引っ張り起こすその荷物の持ち主を横目にトイレへ急いだ。トイレの中でどうして今日は不可思議なことばかり起きるのかと考えた。家に帰り仮眠をとると、見知らぬ番号から電話がかかっていた。食事を取っているとまたその番号からかかってきたので、咄嗟に電話に出ると、案の定というか、助教であった。今から大学に来て下さい、と。「行く」と言うしかなかった。その日は、おれが日程を調整し開催すべき研究室のコンパの日であった。おれがあまりにその仕事を何もしないので助教が代わりに進めていたものだった。すいません、すいません、と。彼からメールが来ていることを知っていたものの読む勇気がなく明日、明日にと先延ばしにしているうちにおれの仕事は無くなった。彼は「メール読んでないよね」と言った。どうしておれはメールを読むことにこんなに恐怖を感じるのか。iPodの音量を上げ大学に向かった。コンパでは、研究室の行事くらい把握しておけ、来年ほんとうに修士2年になれるのとか、修士1.5年じゃないのとか、えっ0.5年も進学できるんだとか、来年は辛いんじゃないのとか、参加費を取られ、おれはおれのことに触れられぬよう話題を振らなければならず、辛くなったときはトイレに逃げた。矢張り、ここにいる人間は、誰もおれのことなど心配してはくれないんだなと気付いた。おれのようにサボっているだけの人間に優しくする奴などいないのは当然だ。おれは何歳なんだろう。なぜ一人で何もできないのだろう。別に彼らがおれを苛めているわけではなく、ただ生暖かい目で、おれをじっと見ている。おれは泥沼でもがいているが、助けてもらおうとしようとしない。それで、学部4年生と話をしていたとき、私来年はTAやるんですけど、あなたを反面教師にさせてもらいます、と言われて、一瞬意味が分からず、ああそういえば彼をTAとして担当していたがおれは途中から教授たちの顔を見るのが怖くて仕事を全うしていなかった、そのことで全ての人間に迷惑をかけたのだがそのことが思い出され、もちろん彼は冗談で言ったのだろうが、そう言われたことにショックを受け、それがきっかけとなった。トイレの便座に座り、そのときおれは泣いてしまった。つとめて何も考えないようにしていたが泣いてしまった。何故おれはこんな所で泣いているのだろう。涙を袖で拭いて、洗面所で顔を洗い、コンパの部屋に戻ると准教授がまだ帰ってなかったんですかと言った。へへと笑いおれは、廊下を言ったりきたりし、気付かれないように荷物を取り、誰にも告げず帰った。歩きながらPSPをやることをおれはおれに許した。モンスター・ハンター。鈍器で爬虫類たちを殴る。吉野家で牛すき鍋定食を食い、帰って寝た。コンパでは酒を飲んで飲んだので、帰ってから飲む気は起きなかった。そういう風に酒をたくさん飲んだ晩の例に漏れず、こんな時間に目が覚めると、携帯にまた同じ番号から電話が入っていた。