おれが出会ったのは大学生になってからだったので少女と呼ぶような歳ではなかったが、その子は他の人よりも頭ひとつ分は小さくて、その華奢な体つきでみせる動作の一つひとつが可愛らしさを周囲に振りまいていたけど、そのことを自分自身知っているようで、袖の長めの服なんか着ちゃって、人懐っこく話しかけてくるのだった。けれどマンガやアニメのようではなくて、理想的なキャラクターにあってない行動を取ることもあって、しかしそれがまた逆に彼女の存在感を増していた。おれがそう思い出すからには、タバコでも吸ってたんだろう。その子が好んで着ていた厚手のコートはベージュと柔らかな緑色でデザインされていて、珍しいつくりだった。クリスマスの夜、彼女がおれの研究室に遊びに来たときに残していったそれが、箱の中から発見されたのである。なんせ5月だというのに履修届を出していなかったもんで、夜なのにデスクの蛍光灯しかついてない薄暗い部屋であらゆる荷物ひっくり返して、生き残るすべを探し求めていたのだ。彼女はサンタの格好をして帰っていった。つまりおれはこの研究室で彼女を見送ったのだということになる。そのうちに彼女との関係は薄れてしまって、もう今どこで何をしているかも知らない。